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分散型金融システムにおけるガバナンス - BGINを通じたマルチステークホルダー・アプローチの実践 -

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牛田 遼介 氏

金融庁総合政策局フィンテック室 課長補佐/ジョージタウン大学 シニアフェロ- 米・ジョージタウン大学Cyber SMART研究センターにおいて、分散型金融システムにおける規制アプローチやガバナンスに関する研究に従事。2020年3月に設立されたブロックチェーンのグローバル・ネットワークであるBGIN(Blockchain Governance Initiative Network)では事務局兼エディターを務める。金融庁信用制度参事官室、監督局総務課、金融担当大臣政務官秘書官等を経て2019年7月より現職。東京大学工学部卒。ロンドンビジネススクール金融学修士。

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金融庁フィンテック室に半分身を置きつつジョージタウン大学でブロックチェーンの研究をしています。いまもワシントンDCにいます。

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1年ちょっとで駆け出しもいいところなのですが、ジョージタウン大学の教授で暗号学者でもある松尾真一郎先生や、ほかの多くのブロックチェーン、インターネット、金融のエキスパートの方からコメントを頂きつつ日々研究をしています。

本日お話するのは個人の見解です。アカデミアの立場で今後どうしていったらいいか、自由に考えたものです。国内の法規制は自分の所掌範囲外です。

今後の規制をどう作っていくのか、規制当局だけでなくみんなで、マルチステークホルダーで作っていこうじゃないか、という話をさせていただきたいと思います。

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前半は当局的な視点からみた分散型金融技術に対する期待とDeFiの現状分析と、後半は特に高度に分散化されたDeFiは規制が難しい、そうは言ってもイノベーションと規制目的を達成するために新しいアプローチに取り組んでいますという話をしたいと思っています。

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最初に用語の確認をさせてください。

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金融当局の間ではこれまで分散型金融技術という名前で議論をしてきました。

これは、FSBという各国当局が集まるようなStandard Setting Bodyですが、ここの報告書でも仲介者や中央集権化されたプロセスの必要性を低減または排除する可能性のある技術ということで定義されていて、まぁそうだよねという感じだと思いますが、結構幅広い定義で、場合によってはDLTでないものも入りうる感じです。

こうした技術を使った新しいシステムが分散型金融システムということになっています。

今日のテーマのDeFiは、はっきり定義がされていないのであまり厳密に議論はできないと思うが、なんとなく自分のイメージでは大体のDeFiのプロジェクトは分散型金融システムの一部なんだろうというふうに思いつつ、ビットコインなんかと比較するとやや分散の程度が低いと。

場合によってはプライベートチェーンやコンソーシアムチェーンで実現されたものなど、中央集権型に近づいてくるという認識を持っています。

もしかしたら「当局はDeFiなんてあまり好きではないでしょう?」と思っている方も多いかもしれませんが、そうではない、ということは一つ強調させてください。

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FSBのレポートで書かれていることの抜粋も含むが、金融安定化についてはポジティブな意見もあるだろう。

透明性や検証可能性が担保されることによって不確実性が低減されるというのは金融リスクの削減にも繋がりますし、仲介業者への依存度が低下するというところもあります。場合によっては金融包摂につながるようなサービスも出てくるのかなという期待をしています。

他方でここに書いてあるようなリスクもあるので、バランスを取ってイノベーションを促進しつつ適切な対応を取っていくのが当局としての基本スタンスかなと思われます。

分散と言ったときにいくつか分散の累計があると思っていて、ここではリスクテイクと意思決定と記録保持と。これが完全にどれも分散されていたら完全分散ということかなと思います。

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今日の説明の関係だと、ガバナンスというところで意思決定のところが関わってくるのかなと思うので、ガバナンストークンの議論も踏まえつつお話していこうかなと思います。

いずれにせよプロジェクトによって分散の程度はまちまちだと思うので、ひとつひとつ見ていく必要があるのだろうと思っています。

まだ自分でもしっくり来ていないが、全体的なエコシステムはこんな感じかなというのと、自分の課題認識をここで並べています。

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全部ご説明はできないが、一番下のブロックチェーンのレイヤーだと複雑なDeFiのエコシステムを構築するための必要な土台ができているか、複雑なレゴブロックを作るには安定した土台が必要だということだと思うのですがそこが一つ問題意識として持っています。

DeFiのレイヤー、真ん中のレイヤーについてはいろいろな問題、ガバナンスや規制やセキュリティ対応といった論点があると思うのですが、今日はガバナンストークンに関わるインセンティブメカニズムのところで少しお話させていただきたいと思います。

ユーザーインターフェースの部分については先に登壇された方々がご説明されている※ような論点だと思っています。


※補足(先の登壇で言及されたユーザーインターフェース(UI、フロント)に関する内容)

平野 淳也 氏:サービスのフロントは差止めできたりするがスマートコントラクト自体は止めにくい

DeFiがユーザーを広げようとしたときにUI/UXの問題も出てくる。ウォレットアプリで使うのもハードルは高い。DeFiを多くの人が使うには言語含めたUIUX改善やカスタマーサポートもするのが必要だが全部スマートコントラクトでやるのは難しい。運営主体が必要になる。

斎藤 創 氏:DEXは運営者がいない。日本の交換業は運営するものを規制する法律なので、交換ではあるが、運営者がいないので交換業ではないということになるのかなと思っている。ただしここにつないでいく媒介者がいると媒介規制の適用を考えないといけない。Uniswapがいちばん有名だが、Uniswapはホームページがあって、そこのホームページからスマートコントラクトにつないで交換ができる。ホームページ自体は運営者がいるので、ホームページ運営者は交換業になる可能性がある。ただしホームページがなくてもスマートコントラクト自体は、交換できるようになっているので、ホームページを規制してもUniswapは止まらない。止まらないけどUIUXは悪くなるよねと思っている。


足元のDeFiを分析するときにその視点はなんだろうと考えたときにかつてのインシデントから教訓を得るのは大事かなと思うので少しまとめてみました。

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有名なのでご存じの方も多いと思いますがThe DAO事件。The DAOという分散型投資ファンドみたいなものが2016年にプロトコルの脆弱性を突かれてEtherが流出して最終的にEthereumのハードフォークに至ったというものですが、これについてアメリカのSECがよくまとまった報告書を出している。そこにまとまっている論点をいくつかここに出しています。

たとえば特定の者(The DAOの場合キュレーター)に権限が集中していたり、セキュリティ投資へのインセンティブが低いようなガバナンス構造であったり、第三者の監査を受けていたけれども脆弱性があった。インシデント発生時の対応手順が決まっていなかった。

DAOトークンについては有価証券に該当したであろうという見解を示している。

他にもICO事案とかこれまでにも起きているのでそういったところの教訓を生かしたプロジェクトが今後出てくればいいんだろうなと思っています。

そういう前提でいくつか気づいたことを並べています。

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ガバナンスは、ガバナンストークンを発行するのはいい面もあって、コミュイティの形成手段、開発資金調達という点でメリットもあろうかと思う。ただオンチェーンガバナンスでどこまでできるのだろうか、というところもあると思います。

この観点でちょうど昨日、興味深いケーススタディがあります。

Uniswapは極めて高度に分散化されたプロトコルの一つだと思いますが、そこがUNIトークンをちょっと前に配りました。ガバナンストークンを配った。それでガバナンスの分散化がどう変わっていくか気にして注目していた。

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少し前に初のガバナンス提案があった。大口トークンホルダーのDharmaが提案。今後、このガバナンス提案の承認をする最低得票数を4000万(4%)から3000万(3%)に変更するという提案をしました。つまり少ない得票でもガバナンスの変更ができるという提案。

コミュニティの一部はかなりこれを批判している。大口トークンホルダーにかなり有利な変更だ。DharmaとUniswapはビジネス上の関係もある。コンフリクトがあるのではないか。そういった話がある。一部開発者やベンチャーキャピタルが協力してUniswapのガバナンスを乗っ取ろうとしているのではないかという過激な意見も。

結局昨日投票が締め切られ、4000万UNIがあれば提案されたところ、数十万票の差で至らず否決された。

意思決定の分散性という観点からはそこは守られたということなのだと思うが、どうとるかはいろいろな見方があって、意見を聞いてみたいが、DeFiはそもそもどこまで分散すべきなのか。すべきでないのか。

大口トークンホルダーが意思決定に影響力を及ぼすならそこが(当局からの)アクセスポイントになるので、規制の観点では容易になるかもしれない、など、いろいろな視点があると思っている。

金融安定へのインプリケーションも色々あると思うが、Admin(管理者)キーの保有者であったり特定の者への集中リスクがあるかなと思ったり、信用リスクは担保ベースなので低いと思いつつ、担保資産の変動リスク、特にマーケット急変時にプロトコルがきちんと対応できるかは気になる。

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金融サービスの利便性・多様性の向上で行くと、マーケットインテグリティ、市場の公正性は気にしていかなくては行けないのだろうなと思っています。

社会的ニーズ、これはインターネットレジェンドの村井純先生が「置いてけぼりを作らない社会をデジタル上で目指す」という話をされているが、そういう今の世の中の動きに沿ったユースケースが出てきたらすごく良いのだろうなと思っています。

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後半は、簡単に規制の話とBGINというマルチステークホルダーのプラットフォームの話をさせてください。

規制とはなにか、まずリスクを認識して規制のゴールを定めます。そして法律なんかの規制を作成して、それを執行します。作成と執行できて初めて規制ゴールが達成できます。

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規制の目的としては、AML/KYCは一つ重要な論点です。ただそれだけではなくて、金融安定や投資家保護などいくつか目的は達成しなくてはならない。それだけ結構ハードルは高い感じではあります。

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従来の規制はエンティティベースの規制なので銀行のような、仲介業者を規制する、ということだったのですが

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分散型金融になるとそういう主体がともすればいないということで、ユーザーを規制するのかどうするのか、というような話になってきます。

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あまり時間がないのでここは割愛しようと思いますが、規制ターゲットが曖昧化するだけでなく、一度デプロイされたらなかなかサービスが止まらないとか追跡可能性の問題とかいろいろな問題があるので、当局にとってこの分散型金融システムというのは結構チャレンジである、ということです。

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なので、方向性としては、これまでのフレームワークだけではだめなんだろうなということで、新しいアプローチが必要なんだろうなということで当局間でずっと考えてきている。

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そのヒントになる一つにインターネットがあるだろうと思っています。

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インターネットは分散型でボトムアップ型でここまで発展してきているわけですが、インターネットからの教訓は、簡単に言うと、左の図はローレンス・レッシグというハーバードの先生が提唱したPathetic dot theoryというものがあるのですが、Lawと書かれている法規制だけが執行のツールではないということです。

基本的には国が、当局が法律を作ってそれを守るというのがコントロールの基本だというご認識があると思いますが、必ずしもそれだけではなくて、マーケットメカニズムに訴えかける、社会規範(Social Norm)といわれるものに働きかけるというものだったり、Architectureを通じた規制、これはスマートコントラクトの文脈でいうとまさにコードによる規制、Code as a Lawみたいな話ですが、いろいろな規制の仕方が考えられるだろうと思います。

既存の規制の文脈だと、特定の人をなんとか見つけてきて規制しようということもあれば、税金だったり補助金だったりを使ってマーケットメカニズムに介入するというやり方もあれば、KYC/AMLなり法律・規制上の目的を達成したいことをコードに埋め込むという考え方もあると思います。

こういった考えを自分の前任者の高梨という、これも金融庁の職員なのですが、発展させてAcademic Paperに書いています。

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stanford-jblp.pubpub.org

Futther readings: ブロックチェーン技術等を用いた金融システムのガバナンスに関する研究 (概要)

要点は、こういったレギュレーションだったり規制目的の要件を達成するし、社会的規範にも一致し、かつマーケットでも競争力があってみんなに選ばれるという行動が作れたら、それは結果的に健全なエコシステムの発展につながるのではないか、ということで、そのためにはエンジニアだけ居ればいいということではなくて、みんなで協力しなくてはいけないということだと思っています。

ただ現状だとなかなか難しい関係。当局とエンジニアは共通言語もなくお互いに何を言っているかわからない。ここのコミュニケーションから改善が必要。他のステークホルダーもビジネス、ユーザーといろいろな思惑があり必ずしも利害が一致しないため、なかなかうまく言っていない。

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よりよい社会を作りたいという目標は一致しているはず。各々が責任を持って役割を果たす、それは必ずしも規制をまもるというだけでなく自律的にガバナンスを作っていくという取り組みを含めて、健全なエコシステムを作っていくのが望ましい方向性かと思っている。

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まとめ

コミュニティと当局ができればデプロイ前からコミュニケーションを取って開発して、結果よりよいスマートコントラクトやDeFiがデプロイされるのが良いだろうと思う。

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1つ紹介したいのは、1つ目

“... engagement than enforcement, “but in the absence of engagement, enforcement is the only option””

これはCFTCの2018年当時の長官が言ったこと。法律の執行・取り締まりをするより、コミュニティとエンゲージメントがしたいという話。

エンゲージメントがない状況だと、規制目的を達成するには法執行する、強権的な手段に出るしか無いという話で、これはおそらく多くの当局者に共通の見解かと思っています。

なのでエンゲージメントのための議論をするプラットフォームが必要だということで、BGINというものの話に繋がります。

今話した問題意識は金融庁は2,3年前から持っていて、各国当局者、アカデミアの方々と話をしていたが、エポックメイキングだったのは去年のG20会議です。

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財務大臣や中央銀行総裁が一堂に会して議論する場です。そこで分散型金融技術が社会に与えるインパクトについて認識を共有したというのと、当局とエンジニアのような多様なステークホルダーとの連携を模索していくのが大事だということで同意した、という画期的な合意が得られた。

必ずしも当局だけでなくて、左下のハイレベルセミナーを御覧いただきたいのですが、インターネットレジェンドの村井純繊細だったり、アダム・バックというサイファーパンクの親玉みたいな人がいて、かつFSBのクラス・ノットという人もいる、いろいろな立場の人がマルチステークホルダーで話してこの方向性について合意したというところで画期的なイベントだった。

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最後にBGINについて

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簡単に言うと誰でも参加できる、かつグローバルでオープンなプラットフォームです。

発起人、Initial Contributorsを見るとビットコインのエンジニアだったりEthereumのコア開発者だったり豪華メンバーになっていると思います。金融庁からも前フィンテック室長の三輪とか高梨が参加しています。

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今後は、自分は事務局的な役割を務めさせていただいていますが、11月23から25日に第一回会合が予定されているのでそれに向けて頑張っています。

bgin-global.org

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何を議論しているかと言うと例えば、分散型技術とプライバシー、アイデンティティ、追跡可能性の関係に関するようなワークストリーム(Decentralized Financial Technologies and Privacy, Identity and Traceability Work Stream)、これはイノベーションと規制目的の両立みたいな話を議論していますし、もう一つはキーマネジメント(秘密鍵管理)ワークストリーム(Key Management Work Stream)、これは中央集権型だったり場合によっては新しい形の分散型暗号資産カストディアンのキーライフサイクルマネジメントのあり方みたいなことを皆で話しています。

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隔週でZoomで議論していたりGithubで議論していたりするのですが、本当に誰でも参加できるのでぜひご関心のある方はこのWebサイトに行っていただいて、場合によってはこのメールアドレスに送っていただければ何かあれば何でもお問い合わせいただければと思います。

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パネルディスカッション(牛田さん発言抜粋)

DeFiは特徴として分散型で多国間にまたがって仲介者がおらず規制しにくいということをおっしゃっていただいています。これに対してマルチステークホルダーガバナンスの構築、コミュニティの対話という打ち手を考えられていますが、そうした議論が始まったばかりだと思うが、実現していくロードマップやスケジュール感があれば教えていただきたい。まだまだここの規制側との対話は初期段階なのだとは思っていますし、ただ、果たして、いままで対立関係と言うかあまりインセンティブが相互に相反するというか、相容れなかった人たちとの間、言葉が通じなかった人たちとの間でエンゲージメント、対話が実現していく道があるのかどうか、その辺の感覚を教えていただきたいと思います。そういうものを進めていくために既存の枠組みでなにか大きな壁があるのだとするとなにか大きく変えていく必要があるのかどうか。いかがでしょうか。

マルチステークホルダーで皆で解決していこうというのは、総論ではみんな賛成だと思うのですが言うは易しみたいなところがあり、実際にやろうとするといろいろな利害関係があって極めて実現するのは難しいというのは正直な認識です。なのですごいチャレンジだと思っているのですが、まだBGINはブートストラッピングの段階で、まずは色々なコミュニティと話をして一緒にやりませんかとコミュニティデベロップメントをしている段階です。その中でもビットコインコアデベロッパーみたいな、割とコアなコミュニティに通じるような人たちも参加はしてくれているので、そういう人たちを使ってどんどん輪を広げるということだと思います。

利害の対立というところだと、当然対立するところはあるのですが、ミニマムで共通認識が持てるところもあると思っていて、例えばAMLとかKYCの文脈で行くと、多分デベロッパーの方々も自分たちのプロトコルが本当にマネロンとか悪いことに使われてほしいと思っている人はあまりいないはずで、本当に思っている人がいたら処罰されるべきだと思うのですけど、なのでそういったところでミニマムでまず共通認識ができるところはあると思うので、そういったところからディスカッションを始めていくというところが大事かなと思っています。

その上で金融取引でどこまで匿名性を認めるのか、といったところは多分フィロソフィーなんかを反映して違いがあって、金融当局としては最低限ここは達成しなくてはいけないというリクワイアメントがあるので、譲れないところはありつつお互いが解決策を見つけていくということが基本方針かなと思います。

必ずしも当局が言うことをコードに反映しなくてはいけないみたいな片務的な関係ではなくて、逆に当局がどうにもできないからエンジニアとかビジネスの方に助けてもらわないといけないところもたくさんあると思っていて、例えば暗号技術が危殆化する、量子コンピューターの技術で暗号が破られましたということになると、とてつもないリスクだと思うが、そういうときに金融当局がなにかできるかと言うとなにかできることは少なくて、そこは逆に暗号学者や技術コミュニティの人になにかソリューションを考えてもらわないといけないというケースも今後発生しうるのだと思うので、そういった相互の関係を作っていく、まずはそこのコミュニケーションを取っていくということかと思っています。

DeFiのように新しい技術、新しい概念で新しいものを作っていくとイノベーションを考えたときに、対話も重要ですが規制も必要になってきます。規制がイノベーションを抑圧するという指摘がこれはDeFiに限らずされてきたと思いますが、日本においてイノベーションとリスクのバランスをどのように保っていくべきでしょうか。個人的なご見解でも良いのでコメント頂けますか。

まず1点、必ずしもイノベーションと規制はトレードオフにあるわけではないと思っていて、例えば規制の不確実性がある、場合によってはコードを書いたら逮捕されるかもしれないという世界観に住んでいると、なかなか安心してエンジニアの方も動けないと思うので、一定の規制の明確化はイノベーションを促進するという側面があると思っています。

一番参考にすべきはインターネットの例だと思います。インターネットの例は、インターネットサービスプロバイダーみたいな、ブロックチェーンの文脈でいうと暗号資産交換所みたいなところかもしれないですけれども、そういったところには一定のKYCなりの規制をかけています。ただ他のところ、Google.comみたいなドメインを管理しているのはICANNという、これは政府から一定の独立を保っている組織、かなりボトムアップ、草の根でDNSを管理しているというコミュニティがあります。

じつは歴史を紐解くと、ICANNも国連の管理下に置こうという中央集権化の動きが国の方ではあったが、そこはインターネットコミュニティが対抗して自分たちでもうまくやれるのだということを示して独立を勝ち取った、最終的にはアメリカ政府との契約も打ち切って今はより独立性が強化されている、というような方向にある。

多分ブロックチェーンのエコシステムにおいても、規制されるべきところ、法律の規制が必要なところもあれば、そういう技術的な運営に任せたほうがパーミッションレスイノベーションが促進するというところもあるので、そこのバランスを考えていくのかなと思っています。

質疑(牛田さん回答抜粋)

英語がしっかり話せないですが、BGINのZoomでの議論には聞くだけで参加してみることはできますか?

大歓迎です。もちろん議論に聞くだけで参加していただいて構わないですし、例えばドキュメントは英語ですがGoogle Docsでみんなでコメントを付けながら作業しているので、そういったところにコメントする形で関わっていただくことも大歓迎なのでぜひ一度ご参加ください

「エンジニアも当局も良い世界を作りたいという思いは同じ」ということでしたが、一国の金融規制当局と、いかなる国からも自由なBitcoin的な金融を目指す思想と、目指すより良い世界は同じなのでしょうか。

すごく良い質問だと思っていて、目指す世界は必ずしも同じではないと思うのですが、それでいいところもあるのだと思います。

社会の多様性や強靭性の観点から行くと複線的なシステムがあってもいいと思いますし、現にインターネットはグローバルなシステムになっているので、国のボーダーに必ずしもとらわれないコミュニケーションというのが行われているので、それが金融取引もオンライン上でやったときにはどうするか、というところで、もちろんRequirementはSNSみたいなものと比べると高いと思いますし、Degital Identityみたいな整備しないといけないレイヤーはあると思うんですけれども、そういった共通の認識や最低限の共通の認識を作って当局が共有できる範囲で、あとはパーミッションレスで自由にやる、というような社会があっていいかなと思います。

この点は金融庁長官の氷見野が8月にまさに新しいデジタルトラストをどう作っていくんだというような文脈でPoWみたいな考え方をコロナ禍の非対面が前提の社会でどうトラストの構築に役立てていくんだという文脈で話していて※ぜひそれもご覧いただければと思うのですが、こういった新しい技術や考え方で適用できるところはぜひぜひ社会に取り入れていくのがいいのかなと思います。


Is Satoshi’s dream still relevant today?

youtu.be

翻訳(個人記事): サトシの夢は今も生きているか? | Motokan | Spotlight


DeFiでは既存の金融サービスを分散しつつユーザーフレンドリーにした形で実現していくとのイメージを持っています。今後5〜10年後のDeFiの見通しを伺いたいです。アマゾンのような存在が生まれるのか、このまま発散を続けていくないしは飽和状態となっていくのか。

難しいなと思いますが、ワーストケースのシナリオとしてはガバナンストークンみたいなもので一部の大口トークンホルダーが実質的な意思決定権を握っていく、例えばそれがお金持ちのベンチャーキャピタルだったりすると、そういう人たちがコントロールしているDeFiはいま世の中から批判されているAmazonだったりFacebookと何が違うんだっけということにもなりかねないだろうし、当局としてもそうならないような世界を目指すべきなんだろうなと思っています。

ベターシナリオとしては、繰り返しの部分もありますが、コミュニティ自らが世の中のニーズであったり当局が何を考えるかというようなことを理解していただいて、当然取引所さんみたいなユーザーインターフェースのところも含めて、より社会のニーズに対応するようなユースケースも含めて、エコシステムが構築できる、まさにインターネットのように、最初インターネットも規制がない、一部規制の潜脱みたいなところから始まって、いまは誰もがメリットを享受してこうしてみんなで話しているわけなので、ゆくゆくはDeFiもそのような存在になっていくことが理想ですし、それを目指してみんなで頑張っていくべきかなと思います。