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暗号資産の規制と国際協力の必要性 | 2018年度フィンテック研究フォーラム公開シンポジウム

www.carf.e.u-tokyo.ac.jp

岩下直行(京都大学公共政策大学院教授)

京都大学の岩下でございます。先程松尾参事官がお話くださった総論の最後のところにございました、「仮想通貨」ではなく、「暗号資産」。国会でも安倍総理大臣が「国際的潮流に鑑みて暗号資産と答えます」とおっしゃっていましたので、ついつい仮想通貨と言ってしまいますが、暗号資産と言うようにして、この最近の動向について30分お話させていただきたいと思います。

こういう議論をなぜ今やっているか、暗号資産が非常に値上がりした2017年の年末、あの頃は大変な熱気がありまして、コインチェック事件があった後も国中がブームに沸いていたわけですが、いまは、国際的な議論はかなり静かになっています。

ただ、今度大阪でG20があります。

G20では前回も大変なその、仮想通貨に関する議論が行われましたので、今回もそうなる、その場合に、日本は実はG20はおろか、世界で唯一の仮想通貨についてのきちんとしたFATF対応の登録制度を導入している国ですので、日本の経験は極めて貴重である。

日本がどう国際的に貢献していくか。そういう観点からお話させていただきたい。

実は2017年の相場変動を作り出した非常に大きな要因はICOでした。

ところで暗号資産そのものは、どうやって取引されているんですかと言うと、サトシ・ナカモトが作った直後のビットコインと、現在の皆さんが買っていたビットコインの買い方とか売り方はぜんぜん違う。その結果としてコインチェック事件なんかが起こった。

もうひとつは、当時と比べると、中国なんかでマイニングというのがやられています。芥川賞のニムロッドはマイニングをどうやるかを延々と書いた小説。読んでみたら、ちょっと技術的に正確でない部分もありましたけど。それは、結果として地球環境問題になっている。それらを踏まえて新しい規制を国際的に考えていくか。

まず相場変動。

言うまでもなく2012年までは数ドルから高くても20ドルまでだったのが、キプロス危機で200ドルまで上がった。一般人に買われるようになった最初のきっかけ。このときキプロスの人がロシアにユール建ての預金をしていた。なんとかしてキプロスから出したい。キプロスビットコインを買ってロシアに送ってルーブルを変えば送金できるじゃないか、ということを考えついた人がいて、値段が10倍に上がった。

そのあとキプロス危機が収まってそのあと年末には10倍、だから2013年に50倍上がった。2017年よりもいっぱい上がった。そのあと人民銀行がこれはまずいと、ビットコイン取り扱いをやめなさいと行って半分に落ちた。日本ではMtGoxの破綻。元の木阿弥で200ドルに戻って、このままビットコインは死んだんじゃないか、と思いきやそのあとぐぐっと上がったのが2017年の頭。

なぜ上がったか。(資料)この後の動きで今の説明が見えなくなるので2枚に分けましたが、このあと20,000ドルになって、1/6になった。

2万ドルになったときに、皆さんおぼえてらっしゃるでしょうか。クリスマスに各国中央銀行財務大臣が様々な声明を発表した。ビットコインがバブル適様相を呈していることに危機感を表明するものだった。

この当時は仮想通貨の価格があまりに上がって崩壊すると、実体経済に悪影響があるのではないかというのが、本気で心配されていた。しかし実際にはほとんど影響はなかった。

警告があって暴落したわけですが、このへんまでの暴落は想定内で、強気派というのがいて、またいつ2万ドルに上がるかと言っていたが、去年11月にその相場が急に崩れて、3300ドルになった。このときにかなり大きなショックが起きました。

強気派から急にみんなが弱気になった。この結果いろんな大きな変化が起きたが、これについては後でお話します。

ビットコイン価格は1000ドルから200000ドル。暗号資産の全体は2兆円から90兆円。日本全株ぐらい。

全暗号資産の総額は上がり方も激しければ下がり方も激しい。

ビットコインよりも激しいというのは、ビットコインのシェアが激しく低下した。2017年にビットコイン価格は20倍になっているのに、シェアは80%から40%に。

これは何故かと言うと、ビットコイン以外の暗号資産が100倍に上がったから。典型的な例がNEMやEthereumやリップルだったりした。

とりわけ一番大きいのが、Ethereum。なんでここで上がったのかという話をしたい。これがICO

ICOをグラフ化したものですが、2017年5月ぐらいから、去年12月に相当落ちた。1年半の間に、全世界で3兆円ぐらい資金調達が行われた。EOS、QASHなど。

私の一つの仮説ですが、これがICOがどういうタイミングで資金調達をしたかのグラフとEthereumの価格。

2017年4月〜6月にICO資金調達額が上がった。EthereumのERC20トークンを使った。それに合わせてEthereum価格があがっている。

これが2017年GW。なぜ仮想通貨、暗号資産が2017年にあんなに上がったかというと、真犯人がICOによるEthereumの相場上昇だと思います。

ビットコインはもともと高かった。Ethereumは30ドルが400ドルにいきなり上がった。それを見て、これ以外の暗号資産もどんどん上がるに違いないとみんなが思ったので、一斉に上がった。結果としてビットコインの値段よりはるかに高い値上がりをした。

それまではシェアの90%がビットコインだった。こういう変化が何故起こったかと言うとICO

ICOは先ほどお話したようにERC20という技術を使うことが多い。発行した通貨がEthereum建てに見える。そうするとEthereumの相場がればICOトークンの価格が上がっているように見える。ICOが上がるとEthereumの価格が上がる、上がると次のICOが生まれる、このプラスのフィードバックサイクル。これがほぼ収束しつつあるのが去年の12月ぐらいから。

さすがにもうICOを信用する人はいなくなったので相場がおちている。なぜ信用しなくなったのか。WhitePaperを書いて100億や1000億集まる。そんな人にお金を預けてどうなるか。IPOに似ているが株すらもらわなくて、トークンには価値は無いようなものがほとんど。みんな損するじゃないかと思うがそうではない。2017年第一四半期にICOトークンを買った人は年末に18.3倍の収益。これでICOで大儲けできるということをみんなが知ってあんなに上がった。

WhitePaper、私も見てみたが、三単現のsがない。ネイティブのひとがやっていない。どこかで見たようなWhitePaperだと思ったらコピペだったりする。これでいいのかと思うが、100億集めたプロジェクトがどうなったか?全部平均して60%ぐらいの収益率。

60%収益が返ってくると思っている人がいるのが信じられないが、これらはだいたいみんなほぼ詐欺。中には時々真面目なものもありますけれども、天然で信じてるんだけど儲からないというものと、悪意丸出しで儲かるぞと言っている人といると思いますが、いずれにせよ最終的にこの価値は0になると思っています。

そうすると最終的にそのお金は、発行者にお金は全部行くと思いますが、これでいいのか。

ICOした企業の半分が4ヶ月以内に消滅している。資金調達して、トークンを上場したプロジェクトであれば、120日後の消滅率は16%。マザーズとかに上場した企業が16%、120日で消えちゃったらどうします?

ベネズエラは国でペトロという通貨を発行した。ERC20トークンで5000億円分うれたらしい。彼らは石油やダイヤを裏付けに発行する。

裏付けと言っていますが、彼らは中央銀行ですからね、彼らのやるべきことは1ペトロ分持ってきたら1ペトロ渡すこと。

ERC20というのは資金調達のツールに過ぎない。国家レベルの中銀ICOマーシャル諸島で発行するらしいが、通貨の名前がソブリンという通貨らしい。紛らわしいのでやめろと思いますが。

世界のビットコインルノードは世界に1万台あり、日本には248台しか無い。日本には350万人の個人投資家があるが、それにたいして258台は合わない。

どうしてか。銀行とか、国際の振替決済における間接参加者をイメージしてください。

つまり仮想通貨交換所のデータベースに持っている。

直接参加者が日銀に持っていて、そのなかのいくつかの国債は、誰それさんのもの、というような非常に中央集権的なもの。

この結果、暗号資産取引には2種類ある。

オンチェーン取引とオフチェーン取引。

自分で秘密鍵を用意して署名して送金してブロックチェーンに記録されたら書き換えられない、みんなが思っているビットコイン取引は、サトシ・ナカモトのOn-chain取引

ところが、アメリカのSECの長官が仮想通貨研究会にでまして、そのときの発言によれば、Off-chain取引が95%、といっていました。統計がないので適当だと思いますが、ほとんどの取引はブロックチェーンに書かれていない。

すべての取引が、取引所のデータベース、RDBでやり取りされている。

だから大量の暗号資産が取引所に滞留する。その結果サイバー攻撃で暗号資産が狙われた。

みんなトラストレスという。ブロックチェーンがあれば、ブロックチェーンだけが信頼できるといいますが、それは、ブロックチェーンに直接ぶら下がった、採掘業者、プロ、プロの中には犯罪者も入る、は全部直接のノードに入る。

でも素人の350万人の個人投資家は、取引所の中のRDBを信用している。この人達はブロックチェーンの良いところを全然エンジョイ出来ていない。値上がりするからいいじゃないかと。

やっぱりそれではダメじゃないか。どうするか対策は全然変わります。

オンチェーンであれば犯罪捜査やマネロン操作をする必要がある。オフチェーンであれば、センターとなっている、ビットコイン銀行のようなものに成る。大量のビットコインを預かっているのに、これを放っておいて良いんですかと言う話になる。

放っておいてはいけないのではないか。Coincheck事件だけではなく、取引所などが攻撃されて大きな額が流出している。

面白いのは、銀行をターゲットにしたサイバー攻撃は最近減っている。なぜか、効率がいい方を狙ったほうが良い。銀行のインターネットバンキングはせいぜい数千万円とか。

仮想通貨取引所を狙えば580億円が取れる。戦力が圧倒的にこちらに振り向けられているので銀行は平和である。

いずれにせよこういう問題が実態から出ている。コインチェック事件では秘密鍵が不正に使われて580億円のNEMが盗まれてしまった。

その時の取引記録。1/26 0:02 10NEMが送られた。それから1億が繰り返し送られる。そのあとあちこちに送ってマネーロンダリングされている。朝になってもまだ気づいていなくて送られてしまった。

ダークウェブでこれを買いませんかと売り出された。IPアドレスは隠されている。580億円のNEMは盗んだものであるのが明らか。

ビットコインを投げると15%OffでNEMを貰える、そういう情報を掲示した。みんなビットコインを送ってすっかり売れてしまった。

各取引所を総点検して、銀行だったら役員交代じゃないかという重いエラーが出た。日本だからこうしているが、日本以外の国はこうすることすら出来ていない。

もう一つ、地球環境問題。

競争的マイニングに寄って計算がたくさん行われる。ちょうどのハッシュを見つけるためには非常に大量の計算が必要。

しかもその難易度は2017年秋からずっと上がって、ものすごく高くなりました。これは実は、相場が落ちても下がらなかった。

結果として何が起きたかと言うと、ビットコインが消費する電力が、ビットコインだけでオーストリア一国分の電力を消費した。

とんでもない数字。これはこのままずっと増えていくことが予想されていた。もし相場が下がらなかったら、みんながマイニングマシーンを作る競争をしていた。

半導体のシリコンサイクルが相当ずれるぐらいに、大量のマイニングマシンが作られた。NvidiaとかAMDとかがガンガン作ったので大量の電気が消費された。

考えてみれば、そのあと去年の11月に相場が落ちたと言いました。そこでみんな目が冷めてこのままいったらまずいと。

マイニングマシンはマイニングにしか使えないので設備を破棄するしかない。電気代も出なくなったのでやめたんだと思います。しかし儲かると見た人がいたらまた始める。よく見ておかないと地球が持たない。

そういう意味では秘密鍵を誰が持っているのか。集中して持っている人は狙われる。相場が上がるとネガティブなことが起きるのは問題である。

私の見立てでは投機商品として売買されている実態は認めるしか無いかなと、通貨ではない。仮想通貨ではなくて暗号資産というのは正しいことかと思う。

一般の利用者はできれば保護したい。規制しているのは意味がある。それとは別に、オンチェーンの取引は、交換業者はあまり関係ない。

こっちは交換業者をいくら規制してもマネロンなどをコントロール出来ないので、国際的な犯罪防止の仕組みが必要ではないか。

ということで私の説明を終わらせていただきます。

どうもありがとうございました。