今日はブロックチェーンに詳しい方がご参加だと思うが、テクニカルな話ではなく貨幣やマネーの今後に絡めたお話をします。
私が理解しているブロックチェーンの特徴を整理した上で、それと貨幣がどんな関係を持つかお話したい。
大きな特徴は改ざんされない、改ざんされにくい。そういう記録がネットに残せる。
参加者がその記録をほぼ同時に見ることができる。この2つに大きな特徴がある。
この2つの特徴を備えた技術がある時、何を変えるのかをお話したい。
この2つを満たす技術は非常に大きなインパクトがある。経済やビジネス環境を大きく変える可能性がある。
コンテンツの取引のあり方はかなり新しいビジネスが現れると思う。コンテンツの利用を誰がどのくらい利用したのか、なかなか正確に把握が難しいだけでなく、正確に記録しておくことも難しかった。そうすると利用状況に応じたお金の徴収やサービスを加えるだとか、決めの細かい取引の整備が難しかったが、ブロックチェーンを使うことで誰がどのくらい使ったのか、どのくらいコンテンツを視聴したか詳細にわかると、その事をもって、価格を変えたり、サービスを変えたりということが容易になる。
そこを直接的に人を介さずに取引もできる可能性が広がってきている。
もう一つのポイント、これがIoTと言われるものの技術進展と合わせることであたらしい展開を示すということ。
5Gが日本でも立ち上がりつつあるがこれが普及しIoTという、色々なところにセンサーが付き直接情報を伝えるようになると、リアルな活動に関するデータをセンサーを通じて把握可能になる。するとリアルな活動に関するデータをブロックチェーンに記録しておくことが可能になる。その結果はリアルな活動に関する記録を利用する様々なビジネスチャンスがでてきて、経済やビジネスのあり方を大きく変える可能性がある。
私自身はこういう可能性を興味深く思っているが他の方が話すと思うので、私はマネーのこれからに焦点を当ててお話させていただきたい。
新しいマネーが出てきたことはいろいろなところで注目されているが、どちらかと言うと、ご関心のある方は、中銀デジタル通貨について思い浮かべる方が多いのだと思います。日本銀行がデジタル通貨を直接発行することが可能になるのではないか。
あるいはそれがどのようなインパクトを持つか
中国のデジタル人民元やデジタルドルが発行されると世界が変わってくるのではないか?
これはこれで重要な論点だが、今日は折角こういう機会なのでもう少し基礎、もっと大きな話を検討してみたい。
それで、ご存じの方には改めて申し上げることもないことだが、貨幣の役割とはなにか
教科書的には、物々交換における欲求の二重の一致問題を解消する。
お互い自分が欲しい物を持っていれば交換できてハッピーエンドだが、現実にはそういうことはあまりない。
目の前の人と取引しようと思っても、相手は僕が持っているものをほしいとは限らない。交換が成立しない。
ここに貨幣が登場すると、相手を満足させるものを持っていなくても、代わりにお金を渡す。お金を渡して、あなたがほしいものとお金を交換してくださいということにすると、欲求の二重の一致がなくても交換が成立できる。
そのためには貨幣はある性質を満たさないといけない。
誰もが受容しやすい財や性質である必要がある。一般受容性
点々と流通していくことになるため、価値が消耗せず、貯蔵手段としても使える資産である必要があった。貯蔵手段。
取引手段として共通に使われるようになた結果、価格が計算単位として使われるようになった。計算単位。
これらがいわゆる教科書的に出てくる3要件。
ここまでは教科書的だが、実は欲求の2重の一致を実現するには、貨幣という資産、日銀券やコインを転々流通させる必要はないのだと言うことが言われている。
財の移転の記録、「目の前の人からパソコンを受け取りました」という記録だけを残しておく。その変わりどこかで誰かに変わりのものを渡さないといけない。そういうものの交換を記録しておいて、どこかで帳尻を合わせる。
そういうことをすれば、全体として欲求の二重の一致が解消する。全部の取引がされる、ということが知られています。
じつはこれは貨幣の初期の頃からやられていたということが言われていて、ヤップ島で非常に大きな石が貨幣として使われていた。
すごく大きな石なので相手に渡すことはできない。一体どうして貨幣としての役割を果たしていたのか、話は単純で、石が人と人の間を移動するのではなくて、代わりに記録を残す。そうすることでどこかで欲求の一致が社会全体で見られればよい、という形で役割を果たしていた。
社会の貨幣の成り立ちは、このヤップ島の石のような形が近かったのではないかと言われています。
ここで大事なのは記録を残すということ。貸借関係の記録をどうやって誰が帳簿として残しておくのかという話が出てくる。
そうすると、現実的には、記録を残すよりも、コインである貨幣を流通させることで問題を解消していく、というのが歴史的な経緯だった。
ところが、ブロックチェーンという記録が残せる技術が出てきたことによって、改めて帳簿管理型の貨幣が改めて世の中に大きな注目として出てくるようになった。
台帳記録としてのかへいをもうすこし丁寧に説明すると
モノを渡した方は、1万円を持っている。1万円の勝ちを誰かに渡した証明書と理解できる。証明書を持っていくことで、誰からか1万円相当のものを受け取ることができる。1万円札を持っているというのは、その分を誰かに渡した証明書。
証明書としての物理的ななにか、コインでもマネーでもなんでもいいが、こういう物を持っていなくても、1万円のものを誰かに渡したという記録がどこかに残っていて、それを誰もが確認できるなら、物理的なお札やコインを持っていなくても、私は1万円相当のものを受け取ることができるだろうという発想。
実は銀行間決済の構造はこういう形。
皆さんが手持ちで使うリテール型と呼ばれる中銀デジタル通貨はまだ存在しないが、ホールセール型の中銀デジタル通貨はすでに存在すると言われることがある。どういうことかと言うと、銀行間決済の帳簿上で、誰がどのくらい貸し借りをしたかとデジタルに記録されているので、それはある種のホールセール型デジタル通貨だと言われる。
ところが、銀行間ネットワークのような特殊な環境であれば正確な記録を残すのは簡単だが、一般の活動において、私が1万円分のものを渡しましたという記録がどこかに残ってそれを全部皆がみられるということはおよそ現実的ではなかった。
ところがブロックチェーンという技術は、ゼロに近いコストでそういう記録を残すことができる。ということでいうと、ブロックチェーンは、台帳型の貨幣を実現する非常に大きな武器だということが言えます。
これはかなり大きなテクノロジーのイノベーションだったのだと思います。ブロックチェーンを活用したマネーということであればビットコインがまず頭に浮かぶわけです。もちろんビットコインは素晴らしい発明だったのだと思います。
本質的にビットコインの可能性も台帳型マネーの可能性も同じなのだが、人々に与える役割やできるサービスの可能性という意味では異なったマネーの役割の可能性がここに出てきた。
今日はもう少し台帳型のマネーの可能性を深堀りしたい。
一万円のものを誰かに渡したというのは債権。誰かにもらったのは債務。債権債務関係を記録しておくということがマネーである。
通常その記録として、台帳に乗せると同時にコインやトークンをデータとして受け取るということはもちろんあるかと思う。ただ誤解しないでいただきたいのは、トークンやコイン自体に本質的な価値はなくて、本質的に重要なのは人々の債権債務関係が記録されていて、それが閲覧可能で、改ざんされない形で残されているということがマネーとしての役割を果たす上で重要。
さらには、電子的な台帳の特徴は、債権債務関係だけでなく、取引内容自体を記録できるということにある。
普通はどのくらいコインやポイントを持っているか、何円貸したことになっているのか、ということだけが記録されているが、誰に何を売った結果の1万円なのかを記録することができる。これは非常に大きなポイント。内容がわかることでいろいろな情報を獲得することができる。そういうことがデータを活用しようと思っている事業者にはとても魅力的。
様々なキャッシュレス事業者が出てきているが、そういう人たちの一つの目的はこういうデータを把握することにある。
もちろん、すべてのデータを残す必要はないし個人情報の配慮も必要。
ただいずれにしても、取引履歴と債権債務関係を同時に記録できるというのはブロックチェーン技術の非常に大きな可能性で、ここから出てくるサービスとマネーの提供がこれからのビジネスを大きく変えていくことになるのだろう、これはビジネスとしては非常に面白いことですし、マネーの全く新しい可能性をブロックチェーンが切り開くことになると思っている。その点で経済学者として非常に興味深く感じている。
多くのブロックチェーン上のビジネスが何らかのマネー、コインやトークンの発行を同時に行っているのは基本的にこういう点だから。
取引履歴がきろくされることを利用したビジネスモデルには大きなプラス。そういうものの活用を考えながらビジネス、取引をやっていく。
ローカルなトークン、コイン、地域通貨がいっぱい出てきているのは取引履歴の活用というのが大きなポイントであって、取引履歴の活用として裏側で動くマネーは現状で言うと、中央銀行券、今でいうとクレジットカード、銀行口座を通じて最終的に中央銀行券を動かすルートを通じているが、今のような債権債務関係をブロックチェーン上に記録できるならローカルなコインを使って債権債務関係を記録することでビジネスが回る構造になる。
この話を広げていくと、すべての取引を台帳管理すれば、欲求の二重の一致が世界中で成立する、そういう意味ではマネーがなくなたと言えるかもしれない。記録がされているという意味では、台帳型のマネーが残っていると言えるかもしれない。
Facebook上で債権債務が記録されて取引が完結すれば、Facebookは日銀券を必要としない。銀行支払を必要とすることもなくなる。Facebook経済圏が出来上がる。
Libraによってそういうものが可能になるとはあまり考えにくいが、理念形を考えるとそういうことが出てくるのではないか。ということを考えると、各国中央銀行や金融当局が危機感を持つのもこういう点があると考えることもできると思う。
ただ、現実的には債権の積み上がりは、債務関係がずっと積み上がると、もらっている、一向に返さない、となると許容範囲がある。どこかでひたすら物を受け取っていてはだめだということも出てくる。
現実的には中央銀行券がない世界は想定しにくい
どこかで債権債務関係を清算するプロセスが必要であり、そこで中央銀行券との交換が必要になる。
言い換えると、こういう形で中央銀行券が使われたとしても、私が申し上げたような意味でのブロックチェーンの台帳型のマネーとしての役割は十分機能する。
取引されるものが中央銀行券なのかどこか別のマネーなのかという2者択一関係で考えられるが、台帳型のマネーと捉えると中央銀行券と一緒に使うことができる。
より面白い話ということで行けば新しい可能性を少しお話したい。
今までの議論は中銀マネーでも成立していた取引。つまり金銭取引の世界を台帳記録する話でした。
でも金銭的な取引が難しかった地域貢献やファンとしての熱意などを記録してトークン化、コイン化することができるはず。
さまざまな貢献をブロックチェーン上に記録し、貢献の物々交換をうまく実現することがブロックチェーンで実現できるのではないかというのが一つ面白い可能性だと思います。
近所のお年寄りを助けたとか道路を掃除したとか掃除してもらったとか。そういうやり取りを記録してお互い様で貸したり借り、どこかで帳尻が合うということができることで、もう少し社会が豊かになるし、単なるものの取引だけでなく、今までうまく取引されなかった社会貢献みたいなものが、最終的により広がっていく、ということにブロックチェーン型の記録という意味でのマネーが使えることになるのではないか、というふうに思っています。
地域通貨の新しい可能性というのはこういうことが可能になるという面が大きいと思っています。それはプラスマイナスを相殺する可能性が結構大きいからですね。
でもより大きく言えば地域通貨だけでなくて、より広い世界でこういうことが成り立つことで、今まで単純な金銭取引が難しかったようなサービス、社会貢献、地域貢献やファンがいいねを押した数だったり、あるいは気持ちの熱量だったり、そういうものを具体的なトークン化、コイン化、ポイント化して、取引をさせていくことが実は、ブロックチェーンによって可能になる大事なポイントなのではないかというふうに思っています。
そういうような新しい可能性というのが、ブロックチェーンで出てくるということが私としてはマネーとしてのとても大きな可能性なのではないかと言うふうに思っています。
ここにおいては、単純に言えば、一つの誰かがこういうサービスを提供することが考えられます。しかしながら、より重要な点としては、ある種こういうものが自動執行されていく世界であれば、誰かがお金儲けのためにといったコントロールをされなくても仕組みとしてかなり自動的に回っていく、自律的にこういうものが回っていく世界が、本当は考えないといけないポイントがいくつかあるが、そこは端折るとして、出来上がれば、誰かが設けるためのマネーではなく、社会がよりうまく回っていくためのマネーというものがよりあちこちで出てくるのではないかというふうにも思っています。それから先程のような金銭化できなかったものをトークン化、ポイント化することは今までできなかったサービスを可能にするはずなので、そういう意味でも社会をより豊かにする可能性があるのではないかと思います。
インターネットの発達でより豊かになった社会ですが、ブロックチェーンで今のような記録ができることで、マネーの世界を変えることができれば、その点でも大きな発達が見込めるのではないかと思っている。
今日はマネーの話だけでしたがこのあとのプログラムも聞いていただけると、裏側でこのマネーの話が走っているのだということがわかって、より世界観が広がっていくのではないかと思っております。
それでは時間になりましたので移譲にさせていただきます。
どうもご清聴ありがとうございました。