野口悠紀雄一橋大学教授
東:10年ほど前からビットコインに関して本を書かれたり精力的に発信されていた方、国内でものすごく早い段階で正確な情報を発信されていた。自分も2014年から色々勉強させていただいていたことを覚えている。早速、今日はビットコインカンファレンスだが、円や法定通貨の問題を考えたい。 しばらく円安傾向が続いて1ドル160円ぐらいまでいった。今の円安の問題はなぜ発生したか、なぜ問題か
野口: 円の価値がドルに対して下がる。ここ数年の塩ドルレートの推移、2022年から急激な円安が進んだ。2024年には160円という非常に顕著な円安に。2020年頃は110円とかだったわけですから、3割ぐらい円安になった。異常とも言える。アメリカが政策金利を引き上げたことが背景にある。7月末にこの局面が急転換して急激に円高になった。アメリカの利下げ(見込み)が広がった。円のレートがこの数年間非常に大きく変化したことに注目していただきたい。
東:ここ直近円高傾向なのはそうなのですがここまで円安が続いたのは、円安の悪影響を理解していない人が多いかと思う。野口先生は発信されているが、円安ってなんでそんなに悪いのでしょうか
野口:円安になると物価が上がる。円安になると企業が輸入をする、その元の価格が変わらなくても日本円で評価した輸入価格が上がり、製品価格に転嫁され、消費する価格・物価が上がる。日本の物価は長く上昇していなかったがここ数年で2,3%の上昇に。しかし賃金がなかなかそれに追いつかない。実質賃金は名目賃金を消費者物価で割って実質価値を出したもの、日本の場合長く下がり続けている。最近特に顕著に。なぜ円安が悪いかというと実質賃金を下げて国民を貧しくする。だから問題であるということになる。
東:ビットコイン関係の人は円が価値を失うことに課題意識を持っている人が多くて、それに対してデジタルに希少性のあるビットコインに注目する人もいる。円安の問題について日本全体では一般的にあまり多くない。僕は海外に住んでいて海外物価が上がっているのも感じてすごく危機感を持っている。なぜ日本のひとはあまり気にしていないのか。
野口:円安で得する人がいるから。だれか、企業。企業は円安になると自動で利益が膨らむ。なぜかというと、円安になると輸入価格が円で評価して上昇するが企業は売上に転嫁するので自分は負担しない。輸出は、円で評価すると輸出価格が増える。円で評価した売上が増える。原価が上がる分は転嫁して負担せず、売上の浄化だけを享受する、だから企業にとって粗利益(売上ー原価)が増える。粗利は企業にとって利益と賃金に分配する。賃金が変わらなければ利益が増える。名目賃金は増えなかった。だから企業の利益が増えた。円安になると企業の利益が増える。こういう意見が日本では支配的だった。新聞なんかは円安が心地良いといっている場合も多かった。円安を歓迎するのが一般的な空気。消費者の声が反映されず、企業の利益が増えるという点だけを評価した。
東:ただそうすると日本だけを見ると企業業績が良くなっているように見えるが、一人当たりGDPを世界で見ると、日本が相対的に貧しくなっている。海外の人と比べて日本人はアグレッシブさがないというのもそうですし、台湾は一人当たりGDPが日本を超えた。生産性を挙げないといけないとか、そういうことも気にされていない。
野口:一人当たりGDPの推移グラフを見ると日本はホト度変わらない。2000年頃、世界で最も豊かな国の一つであった。沖縄サミットの年。アメリカより一人当たりGDPが高かった。ところが、20年以上の間殆ど変わらない。ほとんど停滞している。他の国は増えている。特に韓国と台湾は2000年頃は日本の1/4ぐらいだったが、それが今ではほとんど同じ。アメリカはこの間どんどん成長、だから日本だけが取り残されている。この20年、日本の一人当たりGDPが増えなかった、日本が停滞したということがある。これは先程の円安の話と直接関係はしていないが間接的には結びついている。日本の場合に生産性がなぜ上がらなかったか、停滞したか?日本がこの期間に世界の大きな変化に対応できなかった。様々なことがこの期間に起きました。顕著なのが、一つはデジタル化。デジタル技術が色々現れインターネットを中心に経済活動で使われて生産性を上げていった。残念ながら日本はIT革命に対応できなかった。2番目は中国の工業化。(1980年代に?)中国が工業化を始め、日本の得意だったものの輸出を始め日本のシェアが小さくなってきた。そうした変化に対応できなかったのはなぜか。色々理由があるが、私は大きな理由は円安だと思っている。先ほど説明したように円安になると企業利益は増える。何もしなくても増える。だけど例えば、IT革命、情報技術の変化に対応しようとするといろいろなことをしなくてはいけない。そうした技術に長けた人員が必要、企業の仕事のやり方を変える、中国に対応するのもそう、今までと同じものを生産している限り賃金の安い中国には叶わないから別のものを開拓する必要がある。新しい分野の開拓が必要。しかしこれは非常に難しい。これまでいた人の首を切らないといけない、工場を作らないかもしれない。80年代以降に生じた中国の工業かと情報技術の展開、この2つの大きな変化には大変な努力が必要で、日本はそれができなかった。何に頼ったかというと円安に頼った。何もしなくても利益が増える。だからそちらのほうが遥かに簡単。こうして日本は衰退した。円安は、日本が停滞した最も根源的な理由であると思っている
東:円安問題は解決可能か、最後にお話を聞きたいがその前にビットコインについてお話を聞きたい。円安に進めていく力が働くときに、個人としてデジタルゴールドのように発行枚数が限られたものに、日本だけでなく世界で注目荒れている。2014年に野口さんはすでにいっていた。「ビットコインは良くも悪くも現代社会や国家に対する挑戦」「マイクロペイメント、国際送金などで大きな革新を起こす可能性」「課税が難しくなり、納税の不公平さが広がる。税の体型を根本的に帰る可能性」「金融緩和に対する個人の選択肢になり得る」改めていまポテンシャルとしてかじるのは
野口:ビットコインは国家と独立に発行される。ビットコインの仕組みがあれば国家という人々の生活に根源的な存在、銀行などの中央集権的な存在なしに発行できる仕組み。私はこのことに驚いた。人類の歴史上初めて。それが従来社会に極めて大きなインパクトを与えるだろうと当時感じた。この点においてビットコインは歴史を変えていくものだと考えた。2番目、マイクロペイメントを書いたが、送金を非常に安いコストでかつ国・国境をまたいで異なる国の間の送金を瞬時に行う。コストが非常に低いのでマイクロペイメントができる。このような仕組みだった。もともとは。私はこれは世界の経済活動を大きく変えていくだろうと思った。まず国際間ということですが、現在非常に非効率でコストも時間もかかる。それが瞬時にできるのは国際間の経済活動を著しく帰るだろうと思った。もう一つ重要な点、マイクロペイメント。非常に安いがくの送金が可能になる。フリーランサー的な仕事をする人を考えた場合、今では仕事はできても報酬を受けるのが難しい。銀行を通じてやるしかないがかなりコストがかかる方法。個人から個人に直接非常に安いコストで送金できれば、独立したフリーランサー的な個人が仕事を進めていくことを大きく進展させると思った。このような意味でビットコインが人類の歴史上稀に見る大革命であると考えた。3番目に課税の問題が書いてあるが、その後ビットコインは課税の対象になりました。ただこれは元の形のビットコインではなくて取引所を通じて送金されるようになったために可能になった。それから金融緩和に対する個人の選択肢。法定通貨であれば中央銀行が通貨量を増減すれば価格が変動する。それと独立する価値になりうる。ただこれは実際にはそれを超えてビットコイン価格は変動が大きくて想定とは異なる形態になった。
東:実際には期待した形にならなかったという発言もあったが、今の業界や技術のどういったところに課題を感じているか
野口:もともとのビットコインと今のビットコインはかなり形が変わった。もともとは取引所を想定していない。P2P送金手段を想定していた。P2Pの送金は実際にはかなり面倒で難しい。個人にこういう負担を課すというのは今考えれば?だったのかもしれない。そこで実際には取引所で送る形態になった。中央集権的な組織だから、独立に運営できるという性格は大きく変わった。したがって国は取引所を通じてビットコインに規制を与えられるようになった。もともとはどんな権力でも影響を与えられなかったが。これは非常に大きな変化。それから2番目、マイクロペイメントに使えるだろうと考えたが、そうなっていない。これはコストと言うより価格変動の問題。送金手段として使えるには法定通貨に対するビットコイン価格が一定でないと困る。送ったがくと受け取ったがくが変わっちゃう。そのためにペイメントとして使うことが実際にはできなくなった。法定通貨とビットコインが共存しているから起きる問題。ビットコインだけが通貨ならこの問題はない。これが将来どう展開していくかも興味がある。 法定通貨自体もデジタル通貨、CBDCに変わっていく可能性がある。そうした場合にどういう世界が現出するかはよくわからない。3番目、政治等の介入、中央集権的組織があるために介入が可能になっている。
東:一通り変安の問題、ビットコインのポテンシャルや課題を伺ったが、ビットコインは5年後10年後は?どうなっているか、正確に予測するのは難しいか不可能という前提でお伺いするが、最近の円高は一時的傾向か?
野口:円安の見通しは、2022年頃から顕著な円安が進んでいて160円ぐらいになって現在は143円ぐらい。今後は、この動きを決める最も大きな要因はアメリカの利下げ。昨日利下げを決めた。すでに予想されていたから、為替レートには織り込み済みだった。予想通りだったので現実レートが変わることはなかった。今後のことはわからない。日銀制作も影響するがアメリカの金利政策がどのようなスケジュールで起きるか。今想定されることはすでに為替レートに織り込まれている。今後の為替レートは今予測できないことで変わりますから、今予測できないことは予測できません。ビットコインはどうなるか。CBDC=中央銀行デジタル通貨を中国が発行するだろうとこれまでも言われていたが、今になるまでどうにもできない。いろいろな問題があるのだろうが、既存の電子マネーとの関係が難しいんでしょうね。電子マネーがいらな唸る。CBDCが実現すれば銀行が大きな影響を受ける。銀行が要らなくなる。地方銀行が大きな影響を受けるだろう。技術的には可能だがそういう問題があるから難しいのが事実だろうと思う。ただ国際間の取引にCBDCが使われるのではないか。ビットコインは価格変動が激しいなかでステーブルコインなどが開発されている。磯色な技術が今後開発されるわけで、これらの絡み合いでビットコインがどういう位置づけを見出していくだろうと私は思います。